静かな退職とは? 人事が知るべき実態と対策を解説

#静かな退職とは
仕事を辞めるわけではないが、必要最低限の業務しかこなさず、組織への貢献意欲が失われている状態を「静かな退職」と呼びます。Adecco Groupの調査では、X・Y・Z世代の就業者の約7割がこの状態にあると回答しています。本記事では、静かな退職の正確な意味から日本での実態、発生の原因、そして人事として取るべき対策まで解説します。
目次
静かな退職とは何か?退職との違い
静かな退職とは、在籍は続けながらも、仕事に必要な最低限の責任だけを果たし、それ以上の貢献を控える状態です。もともとは米国で広がった「Quiet Quitting」という表現が、日本でも働き方やエンゲージメントの文脈で定着し、「サイレント退職」と呼ばれることもあります。物理的な退職との最大の違いは、在籍しながら起きるため、問題が表面化しにくい点です。
勤怠不良や著しい業績低下がなければ、管理職は「とくに問題ない」と判断しがちです。しかし実際には、主体的な提案、周囲への働きかけ、改善行動といった組織貢献が止まっており、長期的には生産性や職場風土に悪影響を及ぼします。スキルは足りていても、エンゲージメントが落ちている状態だととらえると理解しやすくなります。
日本の静かな退職の実態
静かな退職は、日本の組織課題として広がっているのが実情です。とくにAdecco Groupの調査は、世代別・理由別・今後の就業意向まで示しており、人事施策を考えるうえで役立ちます。
X・Y・Z世代の約7割が静かな退職状態にある実態
Adecco Group Japanが全国の就業者2,050人を対象に実施した調査(2025年12月発表)では、全体の67.7%が静かな退職状態にあると回答しました。内訳はX世代が750人、Y世代が800人、Z世代が500人であり、世代別ではZ世代が71.4%と最も高く、Y世代、X世代も高水準です。こうした数値は、静かな退職がZ世代特有の現象ではなく、世代横断で起きている組織全体の課題であることを示しています。
熱意を持てない理由の1位が給与・報酬への不満
同調査では、仕事への熱意や意欲を持てない理由として、全世代で最も多かったのが「給与・報酬が低い」で35.2%でした。とくにZ世代では40.3%に達しています。一方で、「仕事のやりがいが感じられない」「評価制度への不満」といった理由も上位に挙がっており、単純な賃金水準の問題にとどまらず、評価の納得感や仕事の意味づけまで含めた職場満足度の課題だとわかります。
静かな退職状態でも8割以上が在籍継続を選択
注目すべきは、静かな退職状態にある従業員の80.6%が、現在の勤務先で仕事を続ける考えだと回答している点です。理由として最も多かったのは「次の仕事を見つけるのが難しそうだから」で29.3%でした。言い換えれば、「辞めるほどではないが、前向きにも働けない」状態が長期化しやすい構造があります。人事の視点では、表面化しにくく、しかも組織に滞留し続けるため、対処が遅れるほど組織へのダメージが蓄積される問題です。
静かな退職が起きる根本的な原因
静かな退職は、個人の怠慢だけで起きるものではありません。多くの場合、評価、キャリア、業務負荷、マネジメントのあり方といった組織側の構造が背景にあります。原因の特定を誤ると、対策も表層的になるため注意が必要です。
評価・報酬への不満と努力が報われない経験の積み重ね
最も直接的な原因は、貢献と評価・報酬が結びついていないことです。努力しても認められない、評価基準が曖昧、成果が処遇に反映されないという経験が重なると、従業員はそれ以上取り組んでも意味がないと判断しやすくなります。
本人にとっては「何をどう頑張れば報われるのか」が見えないため、結果として、主体的に取り組む意欲そのものが低下していきます。心理学では「学習性無力感」と呼ばれるメカニズムであり、努力しても報われない経験の蓄積が意欲低下を引き起こします。人事としては、単に給与水準の問題と片づけるのではなく、評価の納得感や説明責任の不足が静かな退職を招いていないかを点検する必要があります。この点は人事として最も直接的に手を打てる領域であり、具体的な対策については後述します。
仕事の意味やキャリアの見通しが持てない状態
自分の仕事が何につながっているのか、自分がどこへ向かっているのかが見えないと、熱意を維持しにくくなります。とくに若い世代ほど、仕事の社会的意義や将来の見通しに敏感であり、日々の業務が単なる処理になった瞬間にエンゲージメントが落ちやすくなります。
今の仕事が将来どのような成長や役割につながるのかがわからなければ、目の前の業務に意味を見出しにくくなるのも当然です。オンボーディングの不足や定期的な1on1の欠如によってキャリアの方向性を確認する機会がない職場では、こうした傾向がさらに強まります。
本人の意欲不足というより、組織側が業務の意義や成長機会を十分に示せているかを見直す視点が重要です。
過度な業務負荷とバーンアウトへの防衛反応
静かな退職をすべて本人の姿勢の問題と片づけるのは適切ではありません。過重労働やサポート不足から自分を守るための防衛反応として起きている場合も珍しくありません。
Adecco Groupの「Global Workforce of the Future 2023」では、マネージャーは他の職務レベルよりもバーンアウト経験が多いと示されています。静かな退職は、消耗し切る前に自分の負荷を制御しようとする合理的な反応である可能性もあります。
たとえば、慢性的な長時間労働が続いている、期待される役割が広がり続けている、上司や人事に相談しても改善が見られないといった状況で、従業員が防衛反応を取るのはごく自然です。防衛反応として起きている場合、本人の意識改革だけを求めても根本的な解決には至りません。
静かな退職のすべてが問題行動とは限りません。組織が過剰な期待や負荷を押しつけた結果として起きている可能性にも、人事は目を向ける必要があります。業務量、支援体制、マネジメント負荷の設計そのものに無理がないかを見直す視点が不可欠です。
静かな退職状態の社員を見極める兆候とサイン
静かな退職は、パフォーマンスがすぐに低下するわけではないため、外から判断しにくい点が課題です。業績数値には表れにくいため、通常の人事評価だけでは捕捉しにくい点が、静かな退職の発見を難しくしています。そのため、数値だけでなく行動変化を見る必要があります。
業務や会議での積極性が目に見えて低下している
静かな退職状態の代表的なサインは、自発的な提案や改善行動が減ることです。会議には参加しているが発言しない、新しいプロジェクトに手を挙げない、Web会議でカメラをオフにしたまま参加する、任意参加の勉強会や社内イベントに来なくなる、といった変化が挙げられます。目標未達ではないため見逃されやすいものの、組織への関与度は確実に低下しています。
チームや職場との関係に変化が生じている
もうひとつのサインは、職場との接点が減ることです。雑談が減る、ランチをひとりで取るようになる、任意の懇親会を避ける、1on1でも「問題ありません」としか返さない、といった行動が挙げられます。本人が不満を表明しないため、上司が「落ち着いているだけ」と誤認しやすい点に注意が必要です。
人事として取り組む静かな退職への具体的な対策
静かな退職は、1on1だけで解決する問題ではありません。採用、評価、キャリア支援、マネジメント体制をつなげて設計し直す必要があります。単純な声かけだけでは、根本的な原因にたどりつかないため注意してください。
採用段階で仕事の意義と職場実態を正直に伝える
入社後のギャップは、静かな退職の初期要因になりやすいものです。求人票や面接で魅力だけを強調すると、入社後の現実とのギャップが大きくなります。仕事の難しさや求められる役割、職場の実態を採用段階から正直に伝えることが重要です。
この考え方はリアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)と呼ばれ、入社後のギャップを抑える手法として知られています。採用支援サービスを使い、採用プロセス全体を見直す方法も有効です。
評価制度と報酬の連動性を高めて貢献が見えるようにする
給与・報酬への不満に対しては、単なる賃上げだけでは不十分です。重要なのは、「何をすればどう評価されるのか」が見えることです。
評価基準の透明化、日常的なフィードバック、短期成果の可視化を進め、努力と承認の接続を強める必要があります。たとえば、月次の貢献を可視化するダッシュボードや、プロジェクト完了時の即時フィードバックなど、短いサイクルで成果を確認できる仕組みが効果的です。日々の承認を仕組み化することも重要です。
キャリア対話の機会をつくり個人の成長と組織をつなぐ
1on1を単なる進捗確認で終わらせず、本人がどこへ向かいたいのかを話し合う場に変えることが重要です。若い世代では、仕事の意味や将来の見通しが持てないことがエンゲージメント低下に直結しやすい場合があります。社内異動や職種転換など、インターナルモビリティ(社内異動・配置転換)の選択肢を従業員に見える形で提示することも重要です。加えて、マネージャーがキャリアコーチの役割を担えるよう育成することも、人事部門の重要な課題です。
マネージャーの負荷を軽減してエンゲージメント管理を組織的に担う
現場マネージャーひとりに、発見、対話、改善までを背負わせる構造には限界があります。Adecco Groupの調査でも、マネージャー層のバーンアウトリスクは高いと示されています。
こうした背景を踏まえ、人事がパルスサーベイやエンゲージメント調査を導入し、組織状態を数値で把握して早期介入する仕組みが必要です。静かな退職への対応は、マネージャー個人の力量に頼るのではなく、組織全体で支える体制へ移行することが重要です。LHHのような採用・組織支援の専門家と連携し、体制を構築することも有効な選択肢です。
採用時から静かな退職への対策を打つべき
「X・Y・Z世代の約7割が該当する」という結果が示す通り、静かな退職は、一部の人材の問題ではありません。人事が先手を打ち、働きがい、納得感、キャリアの見通しを設計し続け、採用競争力と組織の持続性を高める必要があります。
採用時の情報開示や、評価制度の透明化、キャリア対話の質向上、マネージャー支援までを一体で見直せる企業ほど、静かな退職の長期化を防ぎやすくなります。採用や組織づくりの見直しを進める際は、LHHのような採用・組織支援の専門家と連携することも有効です。LHHでは、採用プロセスの設計から組織づくりの支援まで専門家として伴走できます。静かな退職は従業員個人の問題ではなく、組織設計の問題として捉えることが、対策の出発点になります。